説明会でもらった資料に、「週1回、ネイティブの先生と英語の時間があります」と書いてありました。
隣の園のパンフレットにも、似たような1行がありました。
どちらを選んでも同じに見えるのに、「これって、幼稚園としてやらなきゃいけないことなんだろうか」というところが分からないままでした。
私は、そのもやもやを園の雰囲気で決めたくなかったので、国が出している幼稚園教育要領の本文を開いて、機械で言葉を数えました。
この記事に書いてあるのは、そこに書いてあったことと、書いていなかったことだけです。
幼稚園の英語の教育は、教育要領に1行も書かれていない
先に結論を書きます。
文部科学省の幼稚園教育要領(平成29年告示)の全文をテキストにして数えたところ、「英語」は0件、「外国語」も0件でした。
ついでに数えた「教科」も0件、「授業」も0件、「単位時間」も0件、「時間割」も0件です。
つまり幼稚園には、小学校のような教科も、決まった授業時数も、そもそも存在しません。
英語だけが外されているのではなく、教科という枠組みそのものが無い、という順番です。
ここを取り違えると、「英語をやらない園は遅れている」という話になってしまいます。
制度の上では、園の英語の時間は「やってもよい」ものであって、「やらなければならない」ものではありません。
幼稚園・保育所・こども園の3つの告示を、同じやり方で数えた
幼稚園だけを見て結論を出すのは早いと思ったので、就学前の3つの施設の告示を全部そろえて、同じ言葉を数えました。
| 告示(平成29年) | 英語 | 外国語 | 国際理解 | 異なる文化 |
|---|---|---|---|---|
| 幼稚園教育要領 | 0件 | 0件 | 1件 | 1件 |
| 保育所保育指針 | 0件 | 0件 | 1件 | 1件 |
| 幼保連携型認定こども園教育・保育要領 | 0件 | 0件 | 1件 | 1件 |
数え方は、PDFを本文のテキストに直し、改行とページ番号を取り除いてから文字列を検索する、というやり方です(2026年9月12日に実施)。
3つとも、結果がぴったり同じでした。
幼稚園でも、保育所でも、認定こども園でも、英語という言葉は国の基準に一度も登場しません。
ひとつだけ注意があります。
PDFをそのまま検索すると、「国際理解」は0件と出ます。
これは本文が「国際」と「理解」の間で行が折り返されているせいで、言葉が無いのではなく、改行で分断されているだけでした。
改行を取り除いてから数え直すと、3つとも1件ずつ出てきます。
同じ資料でも、数え方を間違えると逆の結論になります。
幼稚園の教育は5つの領域でできている。英語という枠はそこに無い
では幼稚園は何をしているのか、という話に移ります。
教育要領の第2章は、「ねらい及び内容」を5つの領域に分けて示しています。
| 領域 | 条文に書かれた位置づけ |
|---|---|
| 健康 | 心身の健康に関する領域 |
| 人間関係 | 人との関わりに関する領域 |
| 環境 | 身近な環境との関わりに関する領域 |
| 言葉 | 言葉の獲得に関する領域 |
| 表現 | 感性と表現に関する領域 |
出典=幼稚園教育要領(平成29年告示)第2章の冒頭。
この5つが全部です。6つ目はありません。
しかも条文には、「各領域に示すねらいは、幼稚園における生活の全体を通じ、幼児が様々な体験を積み重ねる中で相互に関連をもちながら次第に達成に向かうもの」と書かれています。
領域は「時間割の科目」ではなく、遊びや生活を後から見るときの5つの観点だ、ということです。
幼稚園の英語に一番近い条文は、「環境」領域のこの1文だった
英語という言葉は無くても、外国の文化に触れる話がどこかにあるはずだと思って探しました。
見つかったのは1か所だけで、それが「環境」領域の内容の取扱い(4)です。
文化や伝統に親しむ際には、正月や節句など我が国の伝統的な行事、国歌、唱歌、わらべうたや我が国の伝統的な遊びに親しんだり、異なる文化に触れる活動に親しんだりすることを通じて、社会とのつながりの意識や国際理解の意識の芽生えなどが養われるようにすること。
読んでみて、思っていたのと違いました。
主語は「我が国の伝統的な行事」で、異なる文化はそのあとに並んでいます。
ねらいも「言葉を身に付けること」ではなく、「国際理解の意識の芽生え」です。
芽生え、という言葉が使われています。
園の英語の時間が制度の中で座れる席は、いまのところここ1つだけです。
ちなみに同じ「環境」領域の内容には、「幼稚園内外の行事において国旗に親しむ」という項目も入っています。
外国語ではなく、文化のほうの話だと分かります。
幼稚園の「言葉」領域は、英語の教育のことを指していない
「言葉」という領域があるなら、そこに英語も入るのでは、と最初は考えました。
条文を読むと、そうは書いていませんでした。
- ねらいは「自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう」など3つ
- 内容には「親しみをもって日常の挨拶をする」「絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞く」などが並ぶ
- 内容の取扱いには「言葉の響きやリズム、新しい言葉や表現などに触れ、これらを使う楽しさを味わえるようにすること」とある
どれも、何語かは書いてありません。
そして全文の中で「日本語」という語が出てくるのは2か所だけで、どちらも「海外から帰国した幼児や生活に必要な日本語の習得に困難のある幼児」への配慮の条文でした。
つまり要領が言葉について語っているのは、外国語を教えるかどうかではなく、「言葉を交わす喜び」のほうです。
英語の歌やあいさつが、この「言葉の響きやリズム」に重なる場面はあり得ます。
ただ、条文がそれを英語のこととして書いているわけではない、というところは分けておきます。
幼稚園の修了までに育ってほしい10の姿にも、英語は入っていない
平成29年の改訂で新しく入ったのが、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」です。
卒園のときにどうなっていてほしいか、を10項目で書いた部分で、小学校への引き継ぎでも使われます。
| 10の姿 |
|---|
| (1) 健康な心と体/(2) 自立心/(3) 協同性 |
| (4) 道徳性・規範意識の芽生え/(5) 社会生活との関わり |
| (6) 思考力の芽生え/(7) 自然との関わり・生命尊重 |
| (8) 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚 |
| (9) 言葉による伝え合い/(10) 豊かな感性と表現 |
10個のどこにも、英語や外国語は出てきません。
(9) の「言葉による伝え合い」も、本文を読むと「先生や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら」と続きます。
(8) は数量や図形と並んで「標識や文字」で、アルファベットとは書かれていません。
卒園時に国が見ている姿の一覧に、英語は含まれていない、というのが読み取れる事実です。
では幼稚園の英語のプログラムは、制度上どこに入るのか
ここが、この記事で一番知りたかったところです。
条文を読む限り、入り口は2つしかありませんでした。
| 入り口 | 条文の根拠 | 条文が付けている条件 |
|---|---|---|
| 教育課程の中 | 第2章のなお書き | 「特に必要な場合」に各領域のねらいの趣旨に基づいて内容を工夫して加えてよい。ただし幼稚園教育の基本を逸脱しないよう慎重に配慮 |
| 教育課程の外 | 第1章第7・第3章 | 地域の実態や保護者の要請により、希望する者を対象に行う。幼児の心身の負担に配慮し、幼児期にふさわしい無理のないものに |
どちらの入り口にも、必ず「条件」がくっついています。
教育課程の中に足す場合は「特に必要な場合」に限られ、しかも5つの領域のねらいの趣旨に沿っていることが前提です。
教育課程の外、いわゆる預かり保育の時間にやる場合は、希望者が対象で、教育課程に基づく活動を担当する先生と緊密に連携することが求められています。
園の説明会で聞けるとしたら、「英語の時間は教育課程の中ですか、預かりの時間ですか」の1つだと思いました。
どちらが良いという話ではありません。
ただ、答えによって「全員参加か・希望者か」「追加の費用がかかるか」が変わるので、比べるときの軸になります。
幼稚園の教育の時間は1日4時間・年39週。英語はその中の何分か
量の感覚をつかむために、要領が決めている時間も拾いました。
| 項目 | 条文の定め |
|---|---|
| 毎学年の教育週数 | 特別の事情がある場合を除き、39週を下ってはならない |
| 1日の教育課程に係る教育時間 | 4時間を標準とする |
| 教科ごとの時数 | 定めなし(「単位時間」は全文で0件) |
小学校のように「外国語活動は年35単位時間」という数字は、幼稚園には1つもありません。
だから園によって、週1回20分のところもあれば、毎日少しずつのところもあり得ます。
比べようがない、というのが正直なところです。
逆に言うと、園に「週に何分やりますか」と聞けば、そこは園ごとに答えが返ってくる部分だということです。
幼稚園で英語の動画を使うなら、WHOの目安を隣に置いておく
英語の時間に映像を使う園もあります。
ここについては、教育要領のほうに先に書いてあることがありました。
幼児期は直接的な体験が重要であることを踏まえ、視聴覚教材やコンピュータなど情報機器を活用する際には、幼稚園生活では得難い体験を補完するなど、幼児の体験との関連を考慮すること。
映像は「体験の代わり」ではなく「体験の補完」だ、と条文のほうが先に書いていました。
時間の目安については、WHOが2019年に出した5歳未満向けの指針が数字を持っています。
| 年齢 | WHOのスクリーンタイムの目安 |
|---|---|
| 1歳未満 | screen time is not recommended(勧められない) |
| 1歳 | sedentary screen time is not recommended(勧められない) |
| 2歳 | no more than 1 hour; less is better(1時間以下、少ないほどよい) |
| 3〜4歳 | no more than 1 hour; less is better(1時間以下、少ないほどよい) |
この1時間は、園と家を合わせた1日ぜんぶの合計です。
園で映像を使う日は、家の分をその分だけ引く、という引き算になります。
WHOは同じ指針の中で、画面を使わない時間について「読み聞かせやお話、歌、パズルを大人と一緒にやることは子どもの発達にとても大切」とも書いています。
英語の絵本を膝の上で読むほうは、この推奨されている側に入ります。
幼稚園の英語の教育について、今日、家で決められること
調べた結果、園を選ぶときの見方が少し変わりました。
- 英語の有無を「良い園かどうか」の判定に使うのをやめる。国の基準に英語は入っていないので、そこは園の方針の差であって、水準の差ではありません
- 説明会では「教育課程の中か、預かりの時間か」を1つだけ聞く。全員参加か希望者か、費用がかかるかが、その答えで決まります
- 映像を使う園なら、家のスクリーンタイムを1日の合計で見直す。WHOの目安は3〜4歳で1日1時間以下、少ないほどよい、です
園の英語に意味があるかないかは、この記事では判定していません。
それを決められる数字は、国の告示のどこにも書かれていませんでした。
書かれていたのは、「幼稚園でやることの中心は、遊びを通した5つの領域である」というところまでです。
そこまで分かれば、パンフレットの1行に振り回される回数は減ると思いました。
幼稚園の英語の教育を調べるときに開いた資料(出典)
- 文部科学省 幼稚園教育要領(平成29年3月告示)
- 厚生労働省 保育所保育指針(平成29年3月31日厚生労働省告示第117号)
- こども家庭庁 幼保連携型認定こども園教育・保育要領 告示文
- WHO To grow up healthy, children need to sit less and play more(2019年4月24日)
件数を数えたのは2026年9月12日です。
告示は改訂されることがあるので、最新の内容は各省庁の公表ページで確かめてください。
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