図書館の児童書コーナーで、うすい洋書が並んだ棚の前に立ちました。
英語は「たくさん読ませるといい」と、どこかで聞いたことがあったからです。
でも、何年生から読ませるものなのか、どれくらい読ませるものなのかが、私には分かりませんでした。
検索して出てくる「1日15分」「100万語」といった数字には、どれも出典が書かれていませんでした。
そこで、自分の感覚で決めるのをやめました。
学習指導要領の告示そのものと、文部科学省の学校図書館の調査と、国立国会図書館のページを、順番に開いて読み直しました。
この記事に書いてあるのは、公的資料に書いてあったことと、書いていなかったことだけです。
英語の多読は、学習指導要領に「多読」という言葉が1回も出てこない
先に結論を書きます。
小学校学習指導要領(平成29年告示)と中学校学習指導要領(平成29年告示)の全文をテキストにして、「多読」という2文字を機械で数えました。
結果は、小学校の告示で0件、中学校の告示でも0件でした。
つまり、国の基準の側は「英語をたくさん読ませなさい」とも「何冊読ませなさい」とも書いていません。
代わりに書いてあるのは、「読むこと」という領域の目標と、取り扱う語の数と、授業に充てるコマ数です。
- 告示にあるもの=「読むこと」の領域別の目標/語数の目安/授業時数
- 告示に無いもの=「多読」という語/読む冊数や語数の総量/家庭での読書量の目安
- 別の資料にあるもの=学校図書館に外国語の図書がどれくらいあるか(文部科学省の調査)
- 無料で使える窓口=国立国会図書館サーチと、東京・上野の国際子ども図書館
以下、その1つずつを、原文の言い回しのまま並べていきます。
英語で「読むこと」の目標が始まるのは小学5年生から
小学校の告示は、3・4年生と5・6年生で、章そのものが分かれています。
3・4年生が受けるのは「外国語活動」で、これは第4章に置かれています。
第4章の目標には「聞くこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]の三つの領域」と書かれていて、読むことは領域に入っていません。
5・6年生が受けるのは教科としての「外国語」で、こちらは第2章第10節に置かれています。
第10節では「聞くこと、読むこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]、書くことの五つの領域」に増えます。
この差が、告示の中で「読むこと」が始まる地点です。
| 学年 | 科目の名前 | 領域の数 | 「読むこと」の目標 |
|---|---|---|---|
| 小3・小4 | 外国語活動(第4章) | 3領域 | 置かれていない |
| 小5・小6 | 外国語(第2章第10節) | 5領域 | あり |
| 中1〜中3 | 外国語(第2章第9節) | 5領域 | あり |
3・4年生のうちに家で英語の本を開くこと自体を、告示が止めているわけではありません。
ただ、学校側の目標として「読むこと」が立つのは5年生からだ、というのが告示の書きぶりでした。
小学校の英語の「読むこと」は、文字を識別して意味が分かるところまで
では、5・6年生の「読むこと」はどこまで求められているのか。
告示の第10節には、2つしか書かれていませんでした。
- ア 活字体で書かれた文字を識別し、その読み方を発音することができるようにする
- イ 音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする
「文章を読む」「本を1冊読み通す」という書き方は、ここには出てきません。
小学校で立っている目標は、文字を見分けて音にできることと、音で知っている言い回しの意味が分かることまででした。
そのあとに続く「言語活動に関する事項」には、もう少し具体的な活動の例が並んでいます。
読むことの例として挙げられているのは、文字を識別する活動、読み方を発音する活動、掲示やパンフレットなどから自分が必要とする情報を得る活動の3つでした。
紙の本を使う例は「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を、絵本などの中から識別する活動」という形で、あくまで識別の側に置かれています。
小学校で取り扱う語の数は「第4章外国語活動を履修する際に取り扱った語を含む600〜700語程度の語」と書かれていました。
この600〜700語という数字は、読む語数の総量ではなく、取り扱う語彙の目安として書かれているものです。
中学校の英語では「読むこと」が概要と要点をつかむ段階へ上がる
中学校の告示を開くと、「読むこと」の目標が3つに増えていました。
- ア 日常的な話題について、簡単な語句や文で書かれたものから必要な情報を読み取ることができるようにする
- イ 日常的な話題について、簡単な語句や文で書かれた短い文章の概要を捉えることができるようにする
- ウ 社会的な話題について、簡単な語句や文で書かれた短い文章の要点を捉えることができるようにする
小学校の「文字を識別する」から、中学校では「文章の概要と要点を捉える」へ、はっきり段が上がっています。
言語活動の例のほうも、内容が変わります。
中学校では「書かれた内容や文章の構成を考えながら黙読したり、その内容を表現するよう音読したりする活動」が、読むことの最初の例に置かれていました。
続いて、広告やパンフレット、予定表、手紙、電子メール、短い文章から必要な情報を読み取る活動が挙がります。
さらに「短い説明やエッセイ、物語などを読んで概要を把握する活動」まで出てきて、ここで初めて読み物らしいものが登場しました。
中学校で扱う語は「小学校で学習した語に1600〜1800語程度の新語を加えた語」と書かれています。
この1600〜1800語は中学校の数字で、小学校の600〜700語とは別物です。
私が読んだ小学校の告示のPDFには中学校の条文も一緒に収録されていたので、どちらの章の数字なのかを前後の見出しで確かめてから書いています。
英語に触れる授業時数は、小学校4年間で210コマ・中学校3年間で420コマ
読む量を考える前に、学校で英語に触れる時間そのものを数えてみました。
小学校学習指導要領の別表第一には、外国語活動が3年生と4年生で各35単位時間、外国語が5年生と6年生で各70単位時間と書かれています。
同じ表の備考に「この表の授業時数の一単位時間は、四十五分とする」とあります。
中学校学習指導要領の別表第二では、外国語が1年生から3年生まで各140単位時間、一単位時間は五十分でした。
| 校種 | 学年ごとの単位時間 | 合計 | 1単位時間 | 分に直した合計(計算値) |
|---|---|---|---|---|
| 小3・小4(外国語活動) | 各35 | 70 | 45分 | 3,150分 |
| 小5・小6(外国語) | 各70 | 140 | 45分 | 6,300分 |
| 中1〜中3(外国語) | 各140 | 420 | 50分 | 21,000分 |
小学校の4年間を足すと210単位時間で、分に直すと9,450分=157.5時間になります。
中学校の3年間は420単位時間で、21,000分=350時間です。
ただし、この分数と時間数は私が単位時間を掛け算した計算値で、告示にこの結果が書かれているわけではありません。
そしてこの時間の中に「読む時間」が何分あるかは、告示のどこにも書かれていませんでした。
英語の本を含む「外国語の図書」を持つ小学校は67.0%だった
告示の側に読む量の話が無かったので、本の置き場所の側を調べました。
文部科学省が出している令和2年度「学校図書館の現状に関する調査」に、公立学校の蔵書の数字がまとまっています。
この調査の物的整備の部分は、令和元年度末現在の数字です。
公立小学校18,849校の蔵書は176,777,381冊で、1校あたりに割り戻すと9,379冊でした。
同じ調査に「児童生徒等の読書環境の整備に資する多様な蔵書等の整備状況」という項目があり、その中に「外国語の図書」の欄があります。
| 校種 | 学校数 | 1校あたりの蔵書 | 「外国語の図書」を所蔵 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| 公立小学校 | 18,849校 | 9,379冊 | 12,636校 | 67.0% |
| 公立中学校 | 9,120校 | 11,071冊 | 6,357校 | 69.7% |
| 公立高等学校 | 3,436校 | 24,205冊 | 2,270校 | 66.1% |
| 合計 | 34,274校 | ― | 22,029校 | 64.3% |
小学校のおよそ3校に2校は、外国語の図書を学校図書館に置いている、という数字です。
ただし、ここで言う「外国語」が英語なのか他の言語なのかは、調査票の集計には書かれていません。
何冊あるのかも、この項目では所蔵の有無だけを聞いているので分かりませんでした。
「外国語」という語は、この調査のPDF全文を機械で数えて、この蔵書の欄の1か所にしか出てきませんでした。
ちなみに、学校図書館図書標準を達成している学校は小学校で71.2%、中学校で61.1%でした。
英語を読む時間に使えそうな「全校一斉の読書活動」は小学校の90.5%
同じ調査には、学校で本を読む時間そのものの数字もありました。
「全校一斉の読書活動」を実施している公立小学校は17,058校で、割合は90.5%です。
そのうち61.0%が始業前に実施していて、12.4%が毎日、39.5%が週に数回でした。
中学校では7,832校=85.9%が実施していて、実施校の61.0%が毎日おこなっています。
学校図書館から本を借りた冊数は、児童生徒1人あたり年間で小学校49冊、中学校9冊、高等学校3冊でした。
この貸出冊数は、日本語の本と外国語の本を分けずに数えたものです。
「授業における学校図書館の活用状況」という項目も見ましたが、集計されている科目は国語・社会・地理歴史・公民・美術・総合的な学習の時間・特別活動で、外国語の欄はありませんでした。
つまり、学校図書館と英語の授業がどうつながっているかは、この調査からは読み取れません。
一方で、公共図書館と連携している小学校は86.0%あり、そのうち95.6%が図書館資料の学校への貸出しを受けていました。
学校に無い本を外から持ってくる道は、制度としては開いているということになります。
英語の洋書を無料で探す窓口①|国立国会図書館サーチ
家から無料で使える窓口が2つありました。
1つ目が国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)です。
ヘルプには、国立国会図書館の所蔵資料と、都道府県立図書館や政令指定都市立図書館などの資料をまとめて検索できると書かれています。
検索するだけなら、利用者登録もログインもいりません。
洋書を探すときに効く絞り込みは、私が読んだ範囲では2つでした。
- 「所蔵場所」=東京本館・関西館・国際子ども図書館とその中のサービスポイントから選べる
- 「インターネット閲覧」=「ログインなしで閲覧可能」を選ぶと、登録不要でネットで読める資料に絞れる
所蔵場所を国際子ども図書館に絞れば、児童書専門の書庫の中だけを探せるということになります。
検索の書き方も、ヘルプに例つきで載っていました。
半角の二重引用符で挟むとスペースを含むフレーズ検索になり、単語の前に半角プラスを置くとOR、半角マイナスを置くとNOTになります。
スペースで区切ったときはAND検索です。
画面に表示できる件数の上限は10,000件と書かれているので、それより多くヒットしたら条件を足す必要があります。
なお、標準で出ている検索項目は、図書館・タイトル・著者・編者・出版者・出版年・ISBN/ISSN・請求記号・資料種別・資料形態の9つです。
子ども自身が使う窓口としては、国際子ども図書館が「子どもOPAC」という蔵書検索も出しています。
英語の洋書を無料で手に取れる窓口②|国際子ども図書館(東京・上野)
2つ目が国際子ども図書館です。
国立国会図書館の支部図書館で、住所は東京都台東区上野公園12-49と案内されています。
公式サイトには「どなたでもご利用できます」「入館手続きは不要です」と書かれていました。
開館時間は9時30分から17時までです。
休館日は月曜日、国民の祝日・休日、年末年始、第3水曜日で、5月5日のこどもの日は開館すると書かれています。
ここで気をつけたいのが、貸出しの扱いです。
「個人利用の方への貸し出しは行っておりません」と明記されているので、本は館内で読む形になります。
近くの公共図書館を通した図書館間貸出しの制度はありますが、こちらも借りた図書館の館内で読む仕組みです。
蔵書の数は「数字で見る国際子ども図書館」のページに出ています。
| 項目 | 数字(2025年3月31日現在) |
|---|---|
| 図書(洋書) | 100,923冊 |
| 図書(和漢書) | 396,512冊 |
| 雑誌(海外) | 192タイトル |
| 外国資料の範囲 | 約160の国と地域・約140の言語 |
| 子どものへや | 主に小学生以下向けに約1万冊 |
| 世界を知るへや | 約120の国や地域の本を約2,000冊 |
洋書だけで100,923冊あり、そのうち子どもが自分で手に取れる開架の部屋にも数千冊単位で置かれている、という構成です。
世界を知るへやには「ABCの本」というコーナーがあり、各国の文字の本が集められていると案内されています。
「文字のない絵本」のコーナーもあって、こちらは言葉が読めなくても見られる本として紹介されていました。
2024年4月から2025年3月までの来館者は138,694人で、うち18歳未満が23,767人でした。
学校図書館等への児童書の貸出しは同じ期間で7,281点あり、これは学校向けの制度で、家庭から直接申し込むものではありません。
英語の多読について、公的資料に書いていなかったこと
調べていて、いちばん大事だと思ったのは「無かったもの」のほうでした。
ここに並べるのは、原文を機械で数えるか、項目を最後まで読んで確かめたものだけです。
- 「多読」という語=小学校・中学校どちらの告示にも0件
- 何冊読めばよいか・何語読めばよいかという総量の目安=告示に記載なし
- 家庭での英語の読書時間の目安=告示にも学校図書館の調査にも記載なし
- 学校図書館が持つ「外国語の図書」の言語の内訳と冊数=調査は所蔵の有無だけ
- 授業で学校図書館を使う科目の集計=外国語の欄そのものが無い
だから「英語の多読でこれだけ伸びる」という話は、ここに挙げた公的資料の側からは出せません。
公的資料が答えてくれるのは、学校で何を求められているかと、本がどこにどれだけあるかの2つまででした。
その線から先は、各家庭の判断の領域になります。
今日、家で英語の多読のために決められること
読み終わったあとに、今日のうちに手を動かせることを3つだけ書きます。
1つ目は、子どもの学年を告示の区切りに当てはめることです。
4年生までなら、学校側では「読むこと」の目標がまだ立っていない段階だと分かったうえで、家での読書を考えることになります。
2つ目は、通っている学校の図書室に外国語の図書があるかを、担任の先生か学校司書に聞いてみることです。
全国では小学校の67.0%が所蔵していたので、聞く価値のある確率だと思いました。
3つ目は、国立国会図書館サーチの所蔵場所を国際子ども図書館に絞って、1回検索してみることです。
検索は無料で、登録もいらないので、上野まで行くかどうかを決める前に手元で試せます。
行くと決めたら、休館日が月曜日と第3水曜日であることだけ先に確認してください。
以下は、この記事を書くうえでの前提です。
学習指導要領は改訂されることがあり、学校図書館の調査も数年おきに更新されます。
この記事で使った数字は2026年9月12日に各公式ページで確認したもので、最新の内容は出典元の公式ページでご確認ください。
分に直した時間や1校あたりの冊数など、割り算した数字には「計算値」と本文中に書き添えています。
「0件」と書いたものは、原文をテキストにして機械で検索した結果です。
子どもの読み方や進み方には個人差があります。
この記事は特定の学習方法の効果を保証するものではなく、公的資料に書かれていることと書かれていないことを整理したものです。
お子さんの英語で気になることがあるときは、学校の先生など、直接見ている方にご相談ください。
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