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帰国子女の英語を守る枠は制度に無かった。学習指導要領も施行規則も「帰国子女」は0件で、用意されていたのは日本語指導だった

海外から戻ってきた子の英語は、日本の学校でどう扱われるのでしょうか。

せっかく身についた英語が、日本に帰ったとたんに消えていくという話を、いろいろな場所で見かけます。

でも「消える」と言い切る前に、そもそも制度の側がその英語を守るつもりでいるのかどうかを、私は知りませんでした。

感覚で決めるのをやめて、学習指導要領の告示、学校教育法施行規則の条文、文部科学省の調査結果を順番に開きました。

読んでみたら、思っていたのと違う形で「受け止める仕組み」が組まれていました。

この記事に書いてあるのは、公的資料に書いてあったことと、書いていなかったことだけです。

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帰国子女の英語を守る仕組みは、公的資料の中に見つからなかった

先に結論を書きます。

日本の制度が海外から帰ってきた子に用意しているのは、英語を伸ばす枠ではなく、日本語を助ける枠でした。

学校教育法施行規則にも、学習指導要領にも、帰国した子の英語力をどう扱うかという条文は見つかりませんでした。

代わりに条文が並んでいたのは、日本語に通じない子をどう教えるか、という話です。

つまり制度は、帰国子女を「英語ができる子」ではなく「日本語で困るかもしれない子」として見ています。

入学資格や入試のところまで進むと、そこでようやく海外での経験が数えられます。

その順番を、以下で資料ごとに確かめていきます。

帰国子女という言葉は、告示にも条文にも1回も出てこなかった

最初に驚いたのは、言葉そのものが無かったことです。

文部科学省の小学校学習指導要領(平成29年告示)と中学校学習指導要領(平成29年告示)のPDFを、2026年9月12日にテキスト化して機械で数えました。

「帰国子女」は、どちらも0件でした。

同じやり方で、学校教育法施行規則の全文をe-Govの法令データから取って数えたところ、「帰国」という二文字すら0件でした。

公的な文書で使われている言い方は、「海外から帰国した児童」「海外から帰国した生徒」です。

開いた資料「帰国子女」の出現数実際に使われている言い方
小学校学習指導要領(平成29年告示)0件海外から帰国した児童など
中学校学習指導要領(平成29年告示)0件海外から帰国した生徒など
学校教育法施行規則(e-Gov全文)0件(「帰国」も0件)日本語に通じない児童・生徒

この数え方は、PDFと法令データの全文を機械で検索した結果です。

言葉が無いということは、その言葉を前提にした制度も無い、ということでした。

帰国子女について学習指導要領に書いてあった一文はこれだけ

では、告示は海外から帰った子について何も書いていないのかというと、そうではありません。

小学校と中学校の学習指導要領の総則に、短い一文がありました。

「海外から帰国した児童などについては、学校生活への適応を図るとともに、外国における生活経験を生かすなどの適切な指導を行うものとする」

中学校の告示も、児童が生徒に変わるだけで、文はほぼ同じでした。

ここで言われているのは「適応」と「生活経験を生かす」の二つです。

同じPDFを機械で数えると、「英語力」は0件、「バイリンガル」も0件、「母語」も0件でした。

つまり、海外で身につけた英語をどう保つかという観点は、告示の文面には出てきません。

幼稚園教育要領にも同じ趣旨の一文があり、そちらは「安心して自己を発揮できるよう配慮する」という書き方でした。

帰国子女が実際に受けられる特別な枠は「日本語指導」だった

制度として時間割が動くのは、日本語の側です。

学校教育法施行規則の第56条の2に、こう書かれていました。

小学校において、日本語に通じない児童のうち特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、特別の教育課程によることができる。

同じ仕組みが、第79条で中学校に、第86条の2で高等学校に、第132条の3で特別支援学校に置かれています。

そして、この「日本語に通じない」に誰が入るのかは、文部科学省の平成26年1月14日の施行通知に定義されていました。

「海外から帰国した児童生徒や外国人児童生徒、その他主たる家庭内言語が外国語であるなど日本語以外を使用する生活歴がある児童生徒のうち、学校生活を送るとともに教科等の学習活動に取り組むために必要な日本語の能力が十分でないもの」

海外から帰国した子は、はっきり名指しで対象に入っています。

ただし条件がついていて、日本語の能力が十分でない場合に限られます。

日本語が困っていない子は、この枠には入りません。

帰国子女の日本語指導は年間10〜280単位時間が標準と告示にある

時間の量も、数字で決まっていました。

平成26年文部科学省告示第1号に基づき、通知はこう書いています。

日本語の能力に応じた特別の指導に係る授業時数は、年間10単位時間から280単位時間までを標準とすること。

幅がとても広い書き方で、下は年間10単位時間です。

特別の必要がある場合は、280単位時間を超えて指導することも妨げないと書かれていました。

同じ通知には、学年についての一文もありました。

「在籍させる学年については、必ずしもその年齢にとらわれることなく、必要に応じて相当の下学年に在籍させることについても配慮すること」

学年を下げるという選択肢が、公的な通知に明記されていたことは私にとって発見でした。

なお、日本語指導の対象にするかどうかの判断は、校長の責任の下で行うと書かれています。

つまり、入口の判断をするのは学校であって、保護者が申請すれば自動的に決まるものではありません。

帰国子女を含む「日本語指導が必要な日本国籍の子」は11,446人だった

実際に何人がこの枠に入っているのかも、調査で公表されていました。

文部科学省の令和7年度 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査は、令和7年5月1日現在の数字です。

項目(公立学校)令和7年度前回(令和5年度)からの変化
日本語指導が必要な児童生徒84,759人15,636人増(22.6%増)
うち外国籍73,313人15,595人増(27.0%増)
うち日本国籍11,446人41人増(0.4%増)

海外から帰ってきた子の多くは、この日本国籍 11,446人の側に含まれます。

ただし、この数字は「日本語指導が必要」と学校が判断した人数であって、帰国した子の総数ではありません。

調査結果には、帰国した子だけを取り出した内訳は載っていませんでした。

同じ調査によると、義務教育段階で「特別の教育課程」による日本語指導を受けているのは52,725人です。

特別な配慮に基づく指導を受けている子のうち、76.4%がこの正式な枠に入っている計算でした。

海外にいる間の帰国子女を支えていたのは日本人学校と補習授業校

帰ってくる前の段階にも、国の仕組みがありました。

文部科学省の在外教育施設の概要に、施設の種類と規模が載っています。

種類設置状況学んでいる人数
日本人学校(全日制)49カ国・1地域に94校(令和6年4月15日現在)約1万6千人
補習授業校(土曜や放課後)51カ国・1地域に242校(令和6年7月1日現在)約2万1千人(令和6年4月15日時点)
私立在外教育施設(全日制)世界に6校(令和6年4月15日現在)資料に記載なし

日本人学校の教育課程は、原則として国内の学習指導要領に基づき、教科書も国内と同じものが使われると書かれていました。

つまり日本人学校に通っている間は、日本の学校とほぼ同じ英語の量になります。

ネイティブの講師による英会話や現地語の学習を行っている学校もある、という記述もありました。

補習授業校のほうは、国語を中心に、算数や理科や社会を加えた授業を日本語で行う施設です。

こちらも役割は日本語であって、英語を教える場所ではありませんでした。

2022年にできた在外教育施設における教育の振興に関する法律の全文も読みました。

この法律の中に「英語」という語は0件で、附則が政府に検討を求めているのは「海外から帰国した児童及び生徒であって日本語に通じないものに対する支援」でした。

帰国子女の高校入学資格は学校教育法施行規則第95条に書いてある

海外の学校に通ったまま帰ってきた場合、高校を受けられるのかという心配があります。

ここは条文に、はっきり書いてありました。

  • 外国において、学校教育における9年の課程を修了した者
  • 文部科学大臣が中学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設の当該課程を修了した者
  • その他、高等学校において中学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者

これが学校教育法施行規則第95条で、現地校を出ていても日本人学校を出ていても、高校の入学資格は認められます。

大学についても同じ構造で、第150条に「外国において学校教育における12年の課程を修了した者」と書かれていました。

資格の面では、海外で過ごした年数がそのまま数えられる形になっています。

帰国子女枠の高校入試で英語がどこまで使えるかを東京都の要綱で見た

入試になると、ようやく英語が顔を出します。

東京都教育委員会の海外帰国生徒等入学者選抜実施要綱を開いて、条件と検査内容を確かめました。

まず、対象になるのは日本国籍を持つ人で、海外での在住期間と帰国からの経過期間に決まりがあります。

保護者に伴った外国での連続した在住期間入学日現在で認められる帰国後の期間
2年以上3年未満海外在住期間の終了後1年以内
3年以上4年未満海外在住期間の終了後2年以内
4年以上海外在住期間の終了後3年以内

海外にいた期間が長いほど、帰国後に使える猶予も長くなる設計でした。

次に、検査の中身です。

受ける学校と区分検査の内容
三田高校・竹早高校・日野台高校国語(作文を含む)・数学・外国語(英語)の3教科と面接(各教科100点満点)
国際高校(日本人学校出身者)国語(作文を含む)・数学・外国語(英語)の3教科と面接(各教科100点満点)
国際高校(現地校出身者)作文と面接。作文も面接も日本語か英語のどちらかを選べる

英語で受けられるのは、国際高校の現地校出身者の区分だけでした。

それ以外は英語も100点ですが、国語と数学も同じ100点ずつ並びます。

英語が強いだけでは、この枠は取り切れない配点になっています。

なお、この条件と検査内容は東京都のもので、選抜を実施する都立高校は三田・竹早・日野台・国際の4校と要綱に明記されていました。

お住まいの自治体では別の決まりになりますので、各都道府県の教育委員会の案内をご確認ください。

帰国子女の大学入試は「学力検査の免除又は負担の軽減」と要項にある

大学の段階では、国が毎年出している通知に書き方が残っていました。

文部科学省の令和9年度大学入学者選抜実施要項は、多様な入学者の選抜を工夫することが望ましい例として、帰国生徒を挙げています。

「外国における教育事情の違い等に鑑み、広く入学志願者の能力・意欲・適性等に応じ選抜がなされるよう学力検査の免除又は負担の軽減を図り、小論文、面接、資格・検定試験等の成績その他大学が適当と認める資料を適切に組み合わせて評価・判定することが望ましい」

ここで初めて「資格・検定試験等の成績」という言い方が出てきます。

英語の試験の結果を持ち込める余地が、文面の上で用意されているということです。

ただし、要項が言っているのは「望ましい」であって、義務ではありません。

どの資格をどう評価するかは、各大学が決める形になっています。

また同じ要項には、帰国生徒を対象に選抜区分を設ける場合は試験期日や願書受付期間の決まりによらなくてよい、とも書かれていました。

帰国子女の英語を守る役は、結局のところ家庭に残されていた

ここまで読んで、私の中では順番がはっきりしました。

学校の中の制度は日本語を助けるためのもので、英語が評価されるのは入口(入学資格)と出口(入試)だけです。

その間の数年間について、英語をどうするかを書いた公的な文書は見つかりませんでした。

だとすると、そこは家庭の側で決めることになります。

今日のうちに家で決められることを、3つだけ挙げます。

  • 日本語で困っているかどうかを先に見る。日本語指導の枠に入るかどうかの判断は校長が行うので、気になるなら学級担任に相談するところから始まります。
  • 帰国日を記録に残す。東京都の要綱のように、高校入試の応募資格は「海外在住期間」と「帰国後の経過期間」で決まるので、日付が根拠になります。
  • 英語は学校の外で続ける前提で置く。告示にも通知にも英語を保つ枠は書かれていないので、続けるなら家庭や学校外の時間になります。

制度が冷たいのではなく、制度が受け持っている担当が違った、というのが今回の読後感です。

そのぶん、家でやることの輪郭ははっきりしました。

帰国子女について今回開いた資料の一覧

帰国子女に関するこの記事の確認日と免責

本記事の内容は、2026年9月12日に上記の資料の本文を確認したものです。

「0件」と書いたものは、告示のPDFと法令の全文をテキスト化して機械で検索した結果です。

東京都の入学者選抜実施要綱は令和7年度のものを読んでいます。

入試の日程や実施校は年度ごとに変わりますので、受験の年度に合わせて各教育委員会の案内をご確認ください。

学習指導要領や法令も改訂されることがあります。

最新の内容は、文部科学省とe-Gov法令検索でご確認ください。

この記事は特定の学習方法や進路の結果を保証するものではなく、公的資料に書かれていることと書かれていないことを整理したものです。

お子さんの日本語や英語の進み方で気になることがあるときは、学校の先生など、直接見ている方にご相談ください。

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